社員の集中力維持や健康管理の一環として、オフィス内に仮眠スペースを取り入れるケースが増えています。
また、常時50人以上の労働者がいる事業場では、労働安全衛生規則(事務所衛生基準規則)により、体調不良者が横になれる「休養室(または休養所)」の設置が義務付けられていることも背景にあります。
一方で、仮眠スペースを導入したものの特定の人ばかりが使い続け、他の社員が寄り付きにくくなっていると悩む担当者も多いのではないでしょうか。
今回は仮眠スペースの私物化がなぜ起こるのかという背景と、事態を防ぐための具体的な空間デザインの手法について解説します。
なぜトラブルが起きるのか?
オフィスに仮眠スペースを設けたものの、一部の社員しか使えない状態になってしまうケースが後を絶ちません。原因の多くは、空間の過度な快適さと閉鎖性にあります。
完全な密室・真っ暗にできる調光
リフレッシュ効果を高めようと、外から一切見えない構造や遮光性の高い照明を取り入れるケースがよく見られます。良かれと思って整えた設備が、思わぬトラブルの引き金になることもめずらしくありません。
扉を閉め切ることで完全な密室状態になり、室内の明るさをゼロまで落とせてしまうと、熟睡しやすい環境が整います。結果的に長寝や長居を招き、特定の社員が何時間も使い続ける原因につながるため注意が必要です。
フラットなベッド
横になって完全に手足を伸ばせるフラットなベッドは、一見すると疲労回復に向いている設備に思えます。しかし、自宅と同じような姿勢で眠れる環境を用意すると、想定以上に深い睡眠に入ってしまう人が続出するでしょう。
結果として、15分程度の短い休憩を想定していたはずが、同じ人が使い続ける事態を招きます。社員を思いやって導入した設備が、特定の人だけを優遇する空間に変わってしまう点には注意を払う必要があります。
周囲の目が届かない
奥まった場所や死角になる位置に仮眠スペースを設けると、一部の人が長時間居座る原因になります。人の気配がまったく感じられない空間は、特定の社員が自分の部屋のように使い始める主を生み出しやすい環境です。
通路から内部の様子が少しうかがえるレイアウトや、あえて人通りのある場所の近くに配置する工夫が有効になります。適度な緊張感を持たせることが、誰もが平等に利用できる空間づくりにつながるはずです。
「占有されない」空間づくりのコツ
仮眠スペースの居心地を追求しすぎると、特定の人だけが使い続ける要因になりがちです。ルールで利用時間を制限するだけでなく、物理的に長居を防ぐ仕掛けを空間に組み込んでおくと、運用後の手間を減らせます。
フラットなベッドは置かない
特定の社員が長時間居座るのを防ぐには、導入する家具選びが大きなカギを握ります。
折りたたみ式の簡易ベッド・ストレッチャーを置き、体調不良者が出た時だけ広げて使用する。普段からベッドがドーンと置いてあるわけではないため、昼休みに「日常的な昼寝スペース」として占有されるのを物理的に防げます。本来の「救護目的」に一番叶う方法です。
またフルリクライニング機能付きのチェアもおすすめです。「臥床(横になる)」状態を作れるため法令要件を満たしつつ、いわゆる「ふかふかのベッド」ではないため、ガッツリ熟睡して居座る心理的ハードルを上げることができます。
半個室にする
空間を完全に閉ざしてしまうと、外から中の様子が分からず長時間の居座りを招きやすくなります。そこで有効なのが、パーテーションやカーテンを使った半個室の導入です。
天井と足元の空間をあえて開けておくことで、周囲に人がいるという適度な気配が伝わります。外の物音や気配を感じる環境なら、自然と長居にブレーキがかかるはずです。プライバシーを守りつつも、開放感を残した空間づくりを目指してみてください。
畳スペース + 折りたたみマットレス・寝具
小上がりの畳スペースなどを設け、寝具(折りたたみマットレスや敷布団)は押入れ等に収納しておく方法も効果的です。「寝具を備える」という要件を満たしつつ、寝具を出していない状態では普通の休憩スペースとして共有できます。
照明を暗くしすぎない
照明を完全に落としてしまうと、どうしても一部の人が長居しやすい環境ができあがってしまいます。空間全体はある程度の明るさを保ち、眠気を誘いすぎないよう調整するのがポイントです。
手元だけを照らせる小さなライトを設置するか、各自でアイマスクを活用してもらう仕組みが現実的です。少し眩しいくらいの方が、適度な休憩を取りつつ、時間になれば自然と業務に戻るリズムを作りやすくなります。
利用時間の「見える化」
空間のつくりに加えて、運用ルールを少し工夫するだけでも大きな違いが生まれます。大掛かりな設備変更よりも手軽に取り組めるのがメリットです。
たとえばドアの外に「利用中(12:20まで)」と書いたマグネット札を掲示する仕組みを設けます。終了時刻が誰の目にも明らかになれば、時間を過ぎても出てこない状況を周囲が指摘しやすくなるはずです。
この可視化が、特定の社員による長時間の占有を防ぐ抑止力として働きます。
人数に応じた「分散配置」や「簡易設置」
企業側は「法律をクリアするため」「スペースがないから」と1台で済ませがちですが、人数に対して設備が少なすぎるのは「トラブルの種を1つだけ置いて放置している」ようなものです。
大きなベッドを1台置くくらいなら、折りたためるリクライニングチェアや簡易ベッドを複数用意し、同時に複数人が短時間リフレッシュできる環境(または緊急時に複数人対応できる体制)にしましょう。
まとめ
仮眠スペースのトラブルは、占有した個人のマナーだけでなく「長居できてしまう環境」と「運用の曖昧さ」が原因で起こります。真面目に周囲へ配慮している社員が我慢を強いられ、最終的にスペースごと撤去されてしまう……そんな失敗は避けたいものです。
法律をクリアしながら、誰もが気持ちよく使える空間を作るには、設計段階からの仕組みづくりが欠かせません。
これからオフィスやバックヤードのリフォームをご検討中の企業様は、ぜひ「使われ方のルール」も含めた空間デザインを取り入れてみてください。